立ち上がったときに、
動悸がする、めまいがする、だるい、長く立っていられない。
こうした症状を特徴とする病気の一つに、POTS(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome:体位性頻脈症候群)があります。
POTSでは、立ったときに心拍数が大きく増加し、疲労感や運動がつらいといった症状を伴うことがあります。
治療では薬だけでなく、塩分・水分摂取などとともに運動療法が用いられることがあります。
では実際のところ、
「POTSには運動が本当に効くのでしょうか?」
2025年に、この疑問についてこれまでの研究をまとめた系統的レビューが発表されました。
これまでの7つの研究をまとめて検討
この研究では、POTSに対して運動プログラムを行った臨床研究を幅広く検索し、最終的に7つの研究をまとめて評価しました。
評価された主な項目は、
- 心拍数
- 一回拍出量
- QOL(生活の質)
などです。
心拍数はすべての研究で改善方向
今回のレビューで比較的一貫していたのが心拍数に関する結果です。
7研究すべてで、運動後には心拍数に関する指標が改善する方向を示していました。
また、一回拍出量を評価した3研究、QOLを評価した4研究でも、いずれも改善する方向の結果が報告されました。
つまり、現在までの研究をまとめると、
運動療法によって、立位時の頻脈や心肺機能、生活の質が改善する可能性がある
という結果です。
「頑張って立って運動する」という治療ではありません
ここはとても重要です。
POTSに対する運動療法は、
最初からジョギングや激しい運動をする
というものではありません。
多くの研究では、身体を起こした状態での負荷をできるだけ抑えながら開始し、徐々に運動量を増やす方法が採用されていました。
たとえば、
横になった姿勢や半座位でできる運動から始め、徐々に立った状態での運動へ移行する
という方法です。
期間としては3か月程度のプログラムが多く、一部では6か月間行われていました。
実際にPOTSの基準を満たさなくなる人も
いくつかの研究では、運動を続けた後にPOTSの心拍数基準を満たさなくなる患者さんもいました。
ある研究では、運動プログラムを完遂した患者の71%が、フォロー時の10分間立位試験でPOTSの心拍数基準を満たさなくなったと報告されています。
別の6か月間の研究では、運動群でPOTSの心拍数基準を満たした人は23%だったのに対し、対照群では93%でした。また、生活の質も運動群でより改善しました。
ただし、こうした数字だけを見て、
「運動すれば7割治る」と考えることはできません。
研究の質にはまだ大きな限界があります
今回のレビューでは、研究結果そのものはおおむね運動療法を支持していました。
しかし、対象となった研究の多くは小規模で、7研究のうちほとんどに中等度~高いバイアスのリスクがありました。
さらに、
- 研究参加者が少ない
- 脱落率が高い研究がある
- 運動の方法が研究ごとに異なる
- 合併症をもつ患者が十分に研究されていない
といった問題があります。
実際、一部の研究では脱落率が59%に達していました。
そのため著者らも、現時点のエビデンスだけから
「この運動を、この回数、この強度で行えばよい」
という具体的な標準プログラムを決めることはできないとしています。
運動すると悪化する人もいる
さらに注意が必要なのが、運動後に症状が悪化する患者さんです。運動や身体活動のあとに強い疲労感や認知症状などが悪化するpost-exertional malaise(PEM)を認める人もいます。
今回のレビューでは、こうした患者さんが十分に研究されていないことも問題として挙げられています。
運動で具合が悪くなる患者さんは、そもそも運動研究に参加しにくい可能性もあり、研究結果が「運動できる人」に偏っている可能性があります。
したがって、
「POTSだから、とにかく運動した方がいい」とは言えないと思います。
運動療法で重要なのは「量」と「進め方」
運動も薬と同じように、量が重要です。
運動療法には、
- どのくらいの頻度で行うか
- どの程度の強さで行うか
- 何分行うか
- どの種類の運動を行うか
といった要素があります。
今回のレビューでも、それぞれの研究で運動内容にはかなり違いがありました。
症状が強い時期に無理に負荷を増やすのではなく、状態に合わせて調整することが重要です。
まとめ
2025年の系統的レビューでは、POTSに対する運動療法によって、
心拍数、心肺機能、生活の質などが改善する可能性
が示されました。 一方で、研究数はまだ少なく、対象となった研究の多くにはバイアスや脱落率などの問題があります。また、POTSにはさまざまなタイプの患者さんが含まれ、運動で症状が悪化する人もいます。
したがって現在のところ、
「POTSだから運動すればよい」という単純な話ではなく、症状に合わせて負荷を調整しながら運動を進めることが大切と考えられます。
運動療法は有望な治療の一つですが、どの運動を、どの程度行うのが最適なのかについては、まだ今後の研究が必要です。著者らも、より大規模な研究、長期追跡、合併症を考慮した研究が必要と結論づけています。
紹介した論文
Cortez MM, et al.
Impact of exercise to treat postural orthostatic tachycardia syndrome: a systematic review.
Frontiers in Neurology. 2025;16:1567708.
doi:10.3389/fneur.2025.1567708 Impact of exercise to treat pos…
※この記事は医学論文の内容を一般の方向けに要約したものです。運動の可否や強度については、症状や合併症によって異なります。
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