子どもから突然、
「胸が痛い」
と言われると、「心臓に何か病気があるのでは?」と心配になる方も多いと思います。
大人では、胸の痛みが心臓病のサインになることがあります。
そのため、子どもの胸痛でも同じように不安になるのは自然なことです。
では実際に、子どもの胸痛にはどのくらい心臓の病気が隠れているのでしょうか。
今回は、少し古いですが米国の小児循環器外来を胸痛のために受診した3,700人を調べた研究をご紹介します。
子どもの胸痛は、心臓が原因とは限りません
この研究は、Boston Children’s Hospitalの小児循環器外来を2000年から2009年までに胸痛を理由に受診した患者さんを対象にしています。
対象となったのは3,700人で、受診時年齢の中央値は13.4歳でした。
この3,700人のうち、研究上、胸痛の原因が心臓にあると判断されたのは37人、約1%でした。
一方、残りの大部分は心臓以外が原因と考えられていました。
ただし、この「1%」という数字は、すべての子どもの胸痛にそのまま当てはめられる数字ではありません。
この研究は小児循環器外来を受診した患者さんを対象としており、さらに研究方法上、重い心臓病が最初から診断名として登録された患者さんの一部は対象に入りにくいという特徴があります。
論文の著者自身もこの点を研究の限界として述べています。
どんな原因が多かった?
研究では、胸痛の原因はおおよそ次のように分類されていました。
- 原因を特定できないもの:約52%
- 筋肉や胸壁などの痛み:約36%
- 呼吸器系:約7%
- 消化器系:約3%
- 心臓:約1%
- 不安など心理的な要因:約1%
心臓病よりも、筋肉・胸壁などに由来する痛みや、原因を特定できない胸痛の方がはるかに多いという結果でした。
子どもの胸痛は、大人の胸痛とは原因の割合が大きく異なります。
「運動中に胸が痛い」と言ったら?
保護者の方が特に心配されるのが、
「走っているときに胸が痛くなった」
という場合です。
この研究でも、3,700人のうち1,222人、約33%が主に運動中の胸痛を訴えていました。
ですから、
運動中の胸痛=心臓病
というわけではありません。
ただし、実際に心臓の病気が見つかった患者さんでは、運動時の症状に加えて、動悸、失神、心臓病の家族歴、診察や心電図の異常などが診断の手掛かりになっているケースが多くみられました。
つまり大切なのは、「胸が痛い」という一つの症状だけではなく、
いつ痛むのか、ほかの症状を伴うのか、家族歴はどうか
といった情報を合わせて判断することです。
実際に見つかった心臓病は?
37人に認められた心臓の病気には、
心膜炎、心筋炎、冠動脈の先天的な異常、肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈などが含まれていました。
頻度としては少ないものの、見逃したくない病気も含まれています。
そのため、
「子どもの胸痛はほとんど心臓ではないから、何もしなくていい」
という話ではありません。
大切なのは「必要な子を見分けること」
この研究で重要なのは、すべての子どもに心エコーや詳しい検査を行ったわけではない点です。
患者さん全員に、
問診・診察・心電図
が行われ、必要と判断された場合に心エコー、運動負荷検査、ホルター心電図などの追加検査が行われました。
心エコーは1,410人、全体の38%に行われましたが、そのうち胸痛に関連する可能性のある異常が見つかったのは11例でした。
一方、不整脈を調べる長時間心電図などでは、3,700人のうち13人で診断につながる所見が認められました。
つまり、
「たくさん検査をすればよい」のではなく、最初の診察で詳しい検査が必要な子どもを見分けること
が重要になります。
「心臓が原因ではない」と判断された子どもは、その後どうなった?
この研究のもう一つの重要なポイントです。
診察や必要な検査を受け、
「胸痛は心臓が原因ではない」
と判断されて外来を終了した患者さんについて、その後の死亡情報まで調べられました。
合計約1万8,000人・年の追跡で、心臓病が原因で死亡した患者さんはいませんでした。
もちろん、「どんな胸痛でも絶対に大丈夫」という意味ではありません。
ただ、適切な問診・診察・心電図などによって心臓病の可能性が低いと判断された場合には、安心材料になる結果といえます。
どんな胸痛では、より詳しい評価が必要?
この研究では、心臓の病気が見つかった患者さんの多くに、診断につながる何らかの手掛かりがありました。
たとえば、
運動中の胸痛、胸痛に伴う失神や強い動悸、心筋症・不整脈・原因不明の突然死などの家族歴、診察での異常、心電図の異常
などです。
こうした所見がある場合には、必要に応じて心エコーや長時間心電図など、さらに詳しい検査を検討します。
逆に、問診・診察・心電図で心臓病を疑う手掛かりが乏しい場合には、すべての子どもに高度な検査を行う必要はない、というのがこの研究の考え方です。
まとめ
子どもの胸痛は比較的よくみられる症状です。
今回紹介した3,700人の小児循環器外来患者を対象とした研究では、胸痛の原因が心臓にあると判断されたのは約1%でした。
多くは筋肉や胸壁の痛み、呼吸器・消化器の症状、あるいは原因を特定できない胸痛でした。
一方で、まれではありますが、心筋症、不整脈、冠動脈異常などが見つかることもあります。
そのため子どもの胸痛では、
「胸が痛いから心臓病」と過度に心配する必要はありませんが、症状の出方や随伴症状、家族歴などを確認し、必要な場合には心電図などで評価することが大切です。
小児の胸痛では、すべての患者さんに多くの検査をすることよりも、
「詳しい検査が必要な子どもを、最初の診察できちんと見分けること」
が重要と考えられます。
紹介した論文
Saleeb SF, Li WYV, Warren SZ, Lock JE.
Effectiveness of Screening for Life-Threatening Chest Pain in Children.
Pediatrics. 2011;128:e1062–e1068.
※この記事は医学論文の内容を一般の方向けに要約したものです。個々の症状については、実際の診察所見や経過によって判断が異なります。
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